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Thursday, May 8, 2014

パンドラ



2003年に初のTVのドラマとなるセンセイの鞄以来、数多くの名作を生み出してきたWOWOWのドラマWシリーズだが、本作は2008年に発表された『連続ドラマW』の記念すべき初回作である。本作発表までのドラマWは芥川賞や直木賞受賞作といった人気作家の原作を映像化した作品が多かったが、本作は脚本化の井上由美子による書き下ろしのオリジナル作品となっている。主演はWOWOW作品への出演頻度がかなり高い三上博史。共演には國村隼、柳葉敏郎、小西真奈美、谷村美月など。

港東大学病院内科医の鈴木は、上司や同僚のみならず家族からも見放されながら、18年もの長い研究の末、全てのがん細胞を完全に死滅させることのできる究極の薬を発見する。鈴木はこの画期的な研究成果を上司の大田黒に報告し、早速実際のがん患者に対して治験を行うよう申請したが、全てのがんに効果のある特効薬など存在する訳がない、と一蹴され治験の実施も不許可となってしまう。そんなある時、鈴木は水野愛美というがんの患者と出会う。水野は末期がんで余命3か月と宣言されていた。大田黒によって治験実施が認められなかった鈴木は、秘密裏にがん特効薬の実用化に向けた治験を水野と共に行うことにし、遂に水野の体内の全てのがん細胞の消滅を確認する。一方、鈴木の研究結果が本物である事が判明したとたん、大田黒はこれまでの態度を一変させ鈴木へ「共同研究」という形にしようと提案するが…。

記念すべき連続ドラマW初回作の本作は発表年度の第1回東京ドラマアウォードのグランプリを受賞も納得のストーリー。全てのがんを消滅させるという特効薬が開けてしまう「パンドラの箱」がもたらす魑魅魍魎を見事に描いている。一方、連続ドラマらしく各話の後半に山場を持ってくるのはいいのだが、ストーリー展開におけるスピード感が無く、特に政治家や製薬会社が絡んで来る辺りはテンポが悪く中だるみする。全8話の構成だが、もう少し凝縮してスピード感を出しても良かったかなと思う。キャスティングは三上博史、柳葉敏郎、國村隼や平田満といったベテラン俳優を配しており重厚感がある一方、そんなビッグネームの中で山根和馬や谷村美月や上原美佐、小西真奈美といった若手俳優陣の演技が少々浮足立っていたのが残念。(SS)


製作: 2008年 日本 WOWOW
監督: 河毛俊作 / Shunsaku KAWAKE, 若松節朗 / Setsuo WAKAMATSU, 小林義則 / Yoshinori KOBAYASHI, 小倉久雄 / Hisao OGURA
脚本: 井上由美子 / Yumiko INOUE 
出演: 三上博史 / Hiroshi MIKAMI, 柳葉敏郎 / Toshiro YANAGIBA, 小西真奈美 / Manami KONISHI, 谷村美月 / Mitsuki TANIMURA, 相島一之 / Kazuyuki AIJIMA, 上原美佐 / Misa UEHARA, 山本耕史 / Koji YAMAMOTO, 小野武彦 / Takehiko ONO, 吉瀬美智子 / Michiko KICHISE, 平田満 / Mitsuru HIRATA, 國村隼 / Jun KUNIMURA, 余貴美子 / Kimiko YO
ジャンル: サスペンス, ドラマ
鑑賞方法: DVD

横山秀夫サスペンス II (TV)



横山秀夫の短編ドラマ集第2弾は短編警察小説集の深追いより選ばれた4作品をドラマ化。今回は三ツ鐘署という地方の警察署を舞台に、谷原章介主演の『深追い』、北村一輝主演の『引き継ぎ』、小出恵介主演の『締め出し』、および三浦友和主演の『仕返し』の4作品で構成される。それぞれのドラマは独立したストーリーだが、同じ警察署を舞台にした物語であるだけに、4人の刑事それぞれにスポットを当てつつ展開する、一つの連続ドラマのようで、ふと太陽にほえろ!を思い出してしまった。

内容は、前作の横山秀夫サスペンスに続いて、期待を裏切らない面白さ。特に北村一輝主演の『引き継ぎ』は、犯人探し一辺倒の警察ドラマにあって異色の面白さで、北村一輝の持つ独特の存在感と、それにひけをとらない津田寛治の演じるキレた刑事が、共に物語を盛り上げている。この他の3作品も、これまでの警察ドラマとは似て非なる、警察内部の人間関係にスポット当てた秀逸なサスペンスドラマに仕上がっており、WOWOWドラマの面白さを感じつつ、改めて横山秀夫の原作小説の高い品質を思い知ることになる秀逸な短編ドラマ集。(SS)

製作: 2011年 日本 WOWOW
原作: 横山秀夫 / Hideo YOKOYAMA『深追い』
監督: 下山天 / Ten SHIMOYAMA
出演: 谷原章介 / Shosuke TANIHARA, 北村一輝 / Kazuki KITAMURA小出恵介 / Keisuke KOIDE, 三浦友和 / Tomokazu MIURA, 伊武雅刀 / Masatou IBU, 小木茂光 / Shigemitsu OGI, 鶴田真由 / Mayu TSURUTA, 佐藤二朗 / Jiro SATO, 津田寛治 / Kanji TSUDA, 螢雪次朗 / Yukijiro HOTARU, 本田博太郎 / Hakutaro HONDA, 小野寺昭 / Akirra ONODERA, 大杉漣 / Ren OSUGI, 金子ノブアキ / Nobuaki KANEKO, 市川実和子 / Miwako ICHIKAWA, 上原美佐 / Misa UEHARA, 温水洋一 / Yoichi NUKUMIZU, 今井雅之 / Masayuki IMAI, 志賀廣太郎 / Kotaro SHIGA, 若村麻由美 / Mayumi WAKAMURA, 古田新太 / Arata FURUTA, 戸次重幸 / Shigeyuki TOTSUGI, 中村靖日 / Yasuhi NAKAMURA, 山本浩司 / Hiroshi YAMAMOTO, 白石美帆 / Miho SHIRAISHI
ジャンル: サスペンス
鑑賞方法: DVD

Tuesday, May 6, 2014

マグマ (TV)



この数ヶ月、個人的にWOWOW製作の連続ドラマであるドラマWシリーズが流行っている。WOWOWは未加入で視聴は専らDVDなのが恐縮だが。WOWOWは『地上波で映像化出来ないものを映像化する』というポリシーがあるそうで、例えば地上波における大スポンサーの電力会社や大手小売などのネガティブな側面を描くドラマ…といったようなところにWOWOWが入り込む余地があるのだろう。本作は真山仁の経済小説マグマを映像化した作品。3.11の大震災以降に注目を浴び始めた自然エネルギーによる発電の一つ「地熱発電」を舞台としたドラマ。主演は尾野真千子。共演にはWOWOW常連俳優の津田寛治や谷原章介、長塚京三など。

外資系ファンドであるゴールドバーグキャピタルの敏腕マネジャー、野上妙子は社長の待田に大分県にある地熱発電や開発を専業とする「日本地熱開発」の再建を任される。バイスプレジデントに昇格したとはいえ、事実上の左遷ではないかと不満に思いつつ、妙子は会社を立て直すべく大分に乗り込む。赴任早々に大幅な社員のリストラや赤字部門閉鎖を発表するが、夢の地熱発電と言われる高温岩体地熱発電の研究一筋に生きてきた所長の御室や古参研究員からの猛反発を受ける。企業を立て直すために収益を第一に考える妙子だが、一方「日本の未来にとって絶対に必要な地熱発電を研究開発する」という御室の大局に立った考え方や、高温岩体発電の将来性を知るに連れ、妙子は次第に考えを改めていくが…。

個人的に地熱発電の蒸気設備建設プロジェクトに携わったことがあり、思い入れを強く持って視聴した。ドラマでは地元温泉組合との対立や政治家による横槍が相当に派手な形で入るが、事実も政治に振り回され、温泉組合と常に軋轢音を立ててきたのが地熱発電であり、そういったネガティブ面から目を逸らさずに描いた原作や脚本に好感が持てる。一方、地熱発電の蒸気供給面ばかりが語られ、発電もしくは電力の買い方である電力会社について一切触れられていないのは、片手落ちと言わざるを得ない。高温岩体地熱発電の実用化については、ドラマだからこそ描けるハッピーエンドとでも言うべきか。主演は朝の連ドラヒロインのイメージが強く残る尾野真千子だが、あのハマリ役ほどの輝きはなく、外資系ファンドの敏腕マネジャーという強さは感じられなかったのが残念。一方、津田寛治の配役・演技共に個人的にどツボ。如何にも居そうなファンドの辣腕マネジャーをその眼力で好演している。(SS)


製作: 2012年 日本 WOWOW
原作: 真山仁 / Jin MAYAMA『マグマ』
監督: 香月秀之 / Hideyuki KADUKI,  鈴木浩介 / Kosuke SUZUKI
出演: 尾野真千子 / Machiko ONO, 谷原章介 / Shosuke TANIHARA, 石黒賢 / Ken ISHIGURO,  津田寛治 / Kanji TSUDA, 甲本雅裕 / Masahiro KOMOTO, 釈由美子 / Yumiko SHAKU, 渡辺いっけい / Ikkei WATANABE, 大杉漣 / Ren OSUGI, 長塚京三 / Kyozo NAGATSUKA, 上川隆也 / Takaya KAMIKAWA, 升毅 / Takeshi MASU, グレゴリー・ペカー / Gregory PEKAR
ジャンル: ドラマ
鑑賞方法: DVD