シリーズ第1作目にしてもはや伝説となった『シベリア超特急』のシリーズ第2弾は、舞台をシベリア鉄道の車内から満州里(マンチュウリ)付近にある菊富士ホテルの3階に移し、例の如く密室殺人事件とそれを解決へと導く山下大将の活躍、そしてマイク・ミズノ監督渾身の反戦メッセージを描く。寺島しのぶ及び第7回国民的美少女コンテストグランプリの須藤温子の映画デビュー作でもあり、両名とも素晴らしい作品をデビュー作に選んだと思うが、鈴木保奈美の『刑事物語』のように『黒い歴史』になければと切に願う次第。それにしても出演者が非常に豪華である。淡島千景、草笛光子、光本幸子、二宮さよ子、加茂さくらに長門裕之とよくまぁ集めたものだが、この辺は前作のキャスティングを反省したマイク・ミズノの成長が見られるところだ。なお、水野晴郎の自画自賛によると、前述の俳優陣に対して出演依頼をする際、台本を見せずにお願いしたところ『水野さんのが造る映画だと楽しそぉー』ということで全員快諾したそうだ。俳優陣は前作を観たのだろうか。
舞台を列車車内からホテルの室内に移しただけで、密室殺人事件をテーマにした物語の基本線は前作と変わっていないが、物語は当時の事件関係者のキーパーソンが現代にて、取材の記者に対して語るダイアローグの形で展開される。時代は第2次世界対戦開戦前夜の1941年。ヒットラーとの会談を終えた山下奉文日本陸軍大将はシベリア鉄道で日本へ帰国する途中だったが、何者かにより鉄道が爆破されたため、満州里近くの菊富士ホテルへ急遽宿泊することになった。山下大将以外も含めて見るからに癖のありそうな宿泊者達。そして謎の殺人事件が発生する…。
冒頭における菊富士ホテルへチェックインのシーンにおける登場人物の紹介や、『ヒットラーは信用できんぞ!』『スターリンは何を考えているか分からぁん』『何とか戦争だけは回避させなければいかんなぁ』という山下大将の棒読み台詞など、自らの前作に対するセルフ・オマージュ。そして宙を舞うロープ、画面分割や人物目線のカメラワークなどなど過去の名作に対する数々のオマージュに溢れているのも前作同様。
本作における私のお気に入りのシーンの一つは山下大将がナイフを持つシーンだ。どう贔屓目に観ても山の如く動かない山下大将が持つナイフに、被害者役を演じる長門裕之自らが刺されに向かっている。まるで、晩年のジャイアント馬場の十六文キックに向かって引き寄せられる若手レスラーのようだ。一方、水野晴郎の駄々を捏ねる子供のような演技を補うべく獅子奮闘の演技で役者魂を見せた長門裕之は称賛に値する。そして、それを上回るシーンは殺人事件の犯人という嫌疑を掛けられ、軍人らしく自決を迫られた山下大将が頭部に引き金を掛けた後に発する『やめたぁ〜』という台詞である。名だたる女優陣が魂を込めて作り上げた緊迫感あるシーンを一瞬で完膚無きまでに崩すこの名セリフは後世まで語られるに違いない。それにしても、水野晴郎の『超棒読み』と『超々自然体の演技』は本作でも健在だが、歌舞伎役者の中村福助も水野に負けじと甲高い声と緊張感の無い演技で魅せており、水野の稚拙な演技を上手くボカしている。
今回の本編開始前のテロップは『真相は三つの逆転のあと判明しますが決して人に話さないで下さい』というもの。もはや日本語がおかしいがまぁ良いだろう。『絢爛豪華なエンターテイメント、そして加えてサスペンスの面白さ、そして最後に流れる戦争反対のテーマ(水野晴郎談)』をじっくりと堪能して欲しい。もう何があっても驚かないつもりで観たが、最後に大波のように襲いかかる『どんでん返し』は、ダイアローグで語られるという本作の基本設定そのものでさえ木端微塵にするほどの強力な破壊力。マイク・ミズノを堪能し、耐え、許し、受け入れる覚悟が出来ているか否か、鑑賞前に自己確認する事を強くお勧めする。(SS)
製作: 2001年 日本 111分
監督: マイク・ミズノ / Mike MIZUNO
製作: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO
ナレーター: 油井昌由樹 / Masayuki YUI
出演: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO, 西田 和晃 (西田和昭) / Kazuaki NISHIDA, 淡島千景 / Chikage AWASHIMA, 草笛光子 / Mitsuko KUSABUE, 光本幸子 / Sachiko MITSUMOTO, 寺島しのぶ / Shinobu TERASHIMA, 二宮さよ子 / Sayoko NINOMIYA, 加茂さくら / Sakura KAMO, 中村福助 / Fukusuke NAKAMURA, 須藤温子 / Atsuko SUDO, 尾上松也 / Mtsuya ONOE, 長門裕之 / Hiroyuki NAGATO, 安井昌二 / Shoji YASUI
ジャンル: ミステリー
鑑賞方法: DVD
製作: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO
ナレーター: 油井昌由樹 / Masayuki YUI
出演: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO, 西田 和晃 (西田和昭) / Kazuaki NISHIDA, 淡島千景 / Chikage AWASHIMA, 草笛光子 / Mitsuko KUSABUE, 光本幸子 / Sachiko MITSUMOTO, 寺島しのぶ / Shinobu TERASHIMA, 二宮さよ子 / Sayoko NINOMIYA, 加茂さくら / Sakura KAMO, 中村福助 / Fukusuke NAKAMURA, 須藤温子 / Atsuko SUDO, 尾上松也 / Mtsuya ONOE, 長門裕之 / Hiroyuki NAGATO, 安井昌二 / Shoji YASUI
ジャンル: ミステリー
鑑賞方法: DVD
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