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Friday, November 30, 2012

シベリア超特急 ~ 悪魔が乗った殺人列車 ~ / Siberian Express



邦画を語る上でこの作品だけは避けては通れない、という名作は数多く有る。例えば名作シリーズの『男はつらいよ』は、定番ながらも飽きのこない展開と銀幕を彩る名だたる名優達の演技で大衆の人気を掴んでいるものだ。

さて、シリーズ全6作が製作された『シベリア超特急』は名シリーズに成り得るか否か。私の見解は、本シリーズこそ邦画を語る上で避けては通れない名作シリーズだと断言したい。観る度にいい意味でも悪い意味でも裏切られ、満を持して友達に紹介するも逆に『何てことしてくれるんだ!』と凄まれたり、本作を観た後に貴重な時間の損失してしまった事を悔やむ時もある。私の妻は何度一緒に観ようと頼んでも決して観てくれない。それでも、何故か愛して止まないこの名作『シベリア超特急』シリーズの記念すべき第1作目を紹介したい。

物語の舞台は第二次世界大戦開戦前夜の1941年。ヒットラーとの会談を終えた山下泰文日本陸軍大将は、外務省の青山一等書記官と佐伯大尉を連れ、満州経由で日本へ帰国するためシベリア鉄道の車内ですごしていた。しかし、イルクーツクを出発し満州へ向かう車内で殺人事件が発生した。自らのコンパートメントで山の如くじっと推理を巡らせる山下大将。しかし、そんな山下大将を嘲笑うかのように二番目、三番目の殺人が発生し、そして凶弾は山下大将自身へ向けられる…。

巷における本作の評価はいわゆる『B級映画』と言われるもので、ググれば総じて酷評レビューが多い一方、麻薬的な面白さを感じているレビューワーも多く、評価が別れる作品であるのは間違いない。しかし、冷静に考えてみると、本作よりも予算と時間を掛け、流行のアイドルやタレントを起用して華やかに製作される邦画作品群の中で、一体幾つの作品が本作よりも娯楽作品として面白いと言えるだろうか。一体幾つの作品が本作よりも世の中に伝えたいメッセージを織り込んでいると言えるだろうか。監督・脚本・演出を担当したマイク・ミズノの手腕は、デビュー作であるという事を差し引いても二流であるのは確かだろう。しかし、この不完全さこそが本作の魅力であり、そして ―私の勝手な想像だが― その不完全さを補うべくスタッフ一丸となった努力の結晶によって、この稀有の作品が産まれたに違いない。

しかし、とは言っても本作が『B級』であることは否めない事実だ。走行中のシベリア鉄道が舞台であるが、画面は一切の揺れを感じさせないし、列車の屋根で格闘するシーンではセットの端が見切れてバレバレであったり、山下大将が銃で狙われるシーンなどは、かたせ梨乃や菊池隆則などの『本物』の俳優のみならず、稲川素子事務所から借りてきた三流外国人俳優までもが緊張感のある表情で役を演じているのに対し、水野晴郎だけが超自然体の普段顔で緊迫したシーンが台無しだったりするが、これに関しては、どんな時でも動じない日本陸軍の高級幹部という設定を完璧に演じ切っている可能性もあり、評価は難しい。とにかく、アラを探しだすとキリがないのだが、こうしてアラを探すのもまた本作を観る上での楽しみと言うべきか。

しかし、本作を『B級』たる位置付けにしている最大の要素は、水野晴郎の『超棒読み』と『超々自然体な演技』に尽きる。そして、監督のマイク・ミズノ自ら、俳優としての水野晴郎の実力を過信し、この個性派俳優を起用する事に固執してしまったことが、本作を『B級』たる位置に貶めている決定的な要因なのではないだろうか。それにしても不可解なのは、DVDの本編終了後にかつて日テレの金曜ロードショーで水野が行なっていたような作品解説が特典映像として流れるのだが、ここでの滑舌ぶりは演技時のそれとは比べものにならないほどであることだ。自分の作品を自分自身で高評価しているのだから気分もいいだろう。だが、この饒舌さをほんの少しでも演技に回せればと思うのは私だけだろうか。

そんな作品解説とは人が変わったような滑舌の悪い水野晴郎のナレータから始まる本作は、『この映画はクレジットが出たあとある事が二度起こりますので、決してお友達に話さないで下さい』というテロップが流れて本編が始まるのだが、見終わった後に『これは話したくても話せる訳が無い』と思うに違いない。類似したテロップを流したり宣伝コピーに使う作品は過去に山ほどあったが、その何れも軽々と凌駕するマイク・ミズノ一流の『世界初の2回のどんでん返し(水野晴郎談)』を堪能し、そして見終わった後に押し寄せる独特の虚脱感にクタクタになるまで浸かってほしい。(SS)


製作: 1996年 日本 93分
監督: マイク・ミズノ / Mike MIZUNO
製作: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO
ナレーター: 油井昌由樹 / Masayuki YUI
出演: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO, 西田 和晃 (西田和昭) / Kazuaki NISHIDA, 占野しげる / Shigeru SHIMENO, かたせ梨乃 / Rino KATASE, 菊池隆則 / Takanori KIKUCHI,  アガタ・モレシャン / Agathe MORECHAND, インゲ・ムラタタ / Inge MURATA, シェリー・スェニーエリック・スコットフランク・オコーナー, フィリップ・シルバースティン
ジャンル: ミステリー 
鑑賞方法: DVD

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