シリーズ第23作目は上演5時間という長編の意欲作。前作まではVシネ版と劇場版の製作年度とシリーズ全体のリリース番号がバラバラだったのだが、本作は1997年製作なのでリリースされた時点での最新作ということになる。全5部で構成された本作はそれぞれに『運命 / 陰謀 / 裏切り / 屈辱 / 逆襲』というサブタイトルが付いており、リリースはDVD5枚組。さすがに劇場版という訳にはいかなかっただろうし、Vシネ版だからこそ製作し得た作品といえる。長編だけに出演者も多く過去に出演した俳優がてんこ盛りで、それだけでも好きな人には嬉しい作品。
探偵には矢吹麻子と坂井涼子のいつもの2人。ちなみに、麻子が探偵事務所の所長とは知っていたが、涼子が所員とは知らなかった。舎弟には水城拓也に助手として梅子。沢木組長と若頭の広瀬も変わらずで、シリーズを見続けた人には見慣れた面々。黒沢年男演じる悪党の丸岡は銀ちゃんの父親をカタに嵌めて、家庭を滅茶苦茶にして以来の因縁がある男。そして、その丸岡の片腕で命令とあれば人の命を手に掛ける事をも辞さないヤクザな男に菅田俊。菅田俊はシリーズ第5作目『キタの女闇金』以来の出演。金主さんの夏八木勲も久々の出演。銀ちゃんの愛車は変わらずブラバスチューンのメルセデスSLクラス。
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以下のレビューではそれなりに物語の核心を記述しているため、まだ観てない方は読まないほうが良いかも。まぁ、読んだところでそれほど関係無いのですが。
第1部 運命: モノクロのフラッシュバックから始まるツカミのショートストーリーは銀次郎の少年時代に遡る。黒沢年男演じる丸岡がイカサマ博打でカタに嵌められた銀次郎のオヤジをキリ取りで追い込むところをまだ少年の銀ちゃんが追い返す。この丸岡が以降に渡り銀ちゃんの前に立ちはだかる。シリーズ第12弾で『日掛け屋』として登場した中西良太がセコい詐欺師の小泉として登場する。トイチの利息をキチッと収めていた小泉だが、幾つものセコい詐欺を続ける小泉に大きなリスクを感じた銀ちゃんはついに全額回収へと動き出した。しかし、その矢先に小泉が不審な自殺を遂げる…。一方、情にほだされ100万を貸した男に夜逃げされた梅子が銀次郎のところに駆け込んできた。梅子の債権を引き受けた拓也は梅子を引き連れて追い込みをかける…。
銀次郎と丸岡の因縁、セコい詐欺師の小泉、その小泉の不審な死、梅子が金を貸した男とその娘などなど、とりあえずは本作におけるストーリーの基本的な要素を紹介するような1時間なので、本題はこれからのようだ。
第2部 陰謀: 小泉の自殺に不信を抱いた銀次郎は、事件の裏に暗躍する悪党がいると睨み、拓也、麻子と涼子を使って調査を開始した。しかし、別れた嫁やギャンブル仲間は『小泉は自殺をするようなタマやない』と声を揃える。一方、麻子は小泉が金を借りたサラ金の担当者である塚本との奇妙な関係に気づいていた。立場が弱い債務者の小泉に塚本がペコペコしていたというのだ。更に涼子が塚本を調べると多重債務者を更にサラ金へ紹介する丸岡興業という『紹介屋』に出入りしている事が分かった。一方、梅子の債権回収の件で父親の借金を背負った娘のかずみが気になっていた。かずみは看護婦を辞めてミナミの夜で働いていた。相変わらず情に厚い拓也が金貸しに似合わない好意をかずみにかける。しかし、そのかずみが抱える借金は丸岡興業のものだった。
1部で散りばめられた伏線の『点』が2部で段々と線になってきた。そしてその線は銀ちゃんが少年時代からの因縁の男、丸岡に繋がっているようだ。なお、宇野ポテトが喫茶店のマスター役で登場しているので一応報告。ミスター端役は長編版でも裏切らない。
第3部 裏切り: 引き続き丸岡興業の調査を進める銀ちゃんの探偵軍団である麻子と涼子。しかし、勘の利く丸岡は涼子の調査に気付くと同時にかずみの線から拓也も嗅ぎつける。そんな拓也は持ち前の優しからか、かずみの借金200万を銀ちゃんからトイチで肩代わりする。しかし、丸岡興業で200万を返済したかずみが新たに突き付けられたのは、父親が新規で借りたという500万の借用書だった。返済しても返済しても新たな借金が出来てしまう。困り果てたかずみに丸岡は『萬田金融の顧客リストを持ってくれば借金をチャラにする。』と提案する…。
例によって情に厚く心優しい拓也が第3部のストーリの中心。かずみの借金を肩代わりするだけではなく、かずみを嫁に取ろうと思い婆さんに挨拶に行くも、手痛いしっぺ返しを喰らうのだが、拓也は大きな決心をしようとする。第3部で銀ちゃんと丸岡が直接対峙するのだが、少年時代の一件を思い出した銀ちゃんの顔が怖すぎる。今はすっかり丸くなってテレビでお茶目をする竹内力だが、さすが若い頃の彼には凄まじい迫力がある。
第4部 屈辱: 自分の身可愛さに萬田金融の顧客リストを丸岡に流してしまったかずみ。しかし、そんな事は露知らずの拓也はかずみに結婚の申し込みをする。人情に厚い拓也の好意に良心の呵責を感じたかずみは、丸岡の会社へ乗り込み、ナイフで丸岡を突きつけながらリストの返却を迫るも、返り討ちにあってしまう。丸岡は『この戦争で流される最初の血か…。』と呟きながら、銀次郎潰しにかかる。紹介屋が競争相手の顧客リストを手に入れたら最後、やる事は決まっている。少年時代からの因縁もあり熱くなる銀ちゃんにはもはや冷静な判断が下せずにいた…。
銀ちゃんのオフィスでの丸岡との直接対決のシーンでは、珍しくフィルム長回しで互いの台詞が交わされるのだが、流石は黒沢年男である。男らしい迫力満載の演技は決して竹内力に負けてはいない。第4部でも物語の主人公は拓也。段々と仕上がってきた。なお、第4部開始直後に出演者の紹介がされるのだが、そのバックに流れる映像により軽くネタばれするのが残念。
第5部 逆襲: 罪の意識と拓也の熱すぎる愛情に耐えられなくなり自殺をしてしまったかずみ。そして、自分の女が銀ちゃんを裏切ってしまったと知り、自分なりのけじめをつけようとする拓也。丸岡を襲撃するも逆に返り討ちに遭った拓也は瀕死の状態で銀次郎に助けられる。一方、丸岡の調査を引き続き行う探偵軍団は、丸岡のビジネスにわずかなほころびを見つけ、『地番錯綜地』というキーワードで丸岡を潰しにかかる…。
『地番錯綜地』とは地番と実際の土地が合致していない土地のこと。その『地番錯綜地』に絡むのは第1部の冒頭シーンで夜の女に裏切られた工務店の社長。第5部にきて4時間ぶりにやっと絡んできた。端役三羽烏の一角、井上茂が第5部まできてやっと端役で出演。良く見るとジャケット写真の通天閣が『The King of Minami』となってまんがな。
5時間の長い作品だが、各部が1時間で観やすく尺稼ぎの無駄なやり取りも少なく、それなりの凝縮感で冗長な感じはしない。そして、一見下らないと見えるショートストーリーでも、そこに撒かれた伏線はキッチリ回収する。幾つもの『点』が『線』になり、エンディングに向かって結実していく様はアカデミー賞受賞作品の『LAコンフィデンシャル』を思い出させる。そして、それこそ『ミナミの帝王』シリーズの真骨頂、かつ質の高い脚本の見せ所でもある。ハードな暴行シーンが少ない本シリーズでは珍しく、ナイフで暴れるヤクザな男や、沢木組長の殺人を匂わせるシーンまであり、これまでもこれからも無いようなバイオレンスシーンが見もの。
本作は、銀次郎が幼い頃から心に抱え込んでいる過去の因縁との決別を描いた作品と言えるが、決して丸岡を再起不能にしたりキッチリとカタに嵌めた訳ではない。それは相生橋のラストで両者の闘いがまだまだ続くことを示唆しているシーンでからも分かる。しかし、それとは別の裏の主人公は拓也とかずみだろう。特に拓也の派手な服装に似合わない人情が物語に厚みを与えている。(SS)
製作: 1997年 日本 300分
監督: 萩庭貞明 / Sadaaki HAGINIWA
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出演: 竹内力 / Riki TAKEUCHI, 古本新乃輔 / Shinnosuke FURUMOTO, 竹井みどり / Midori TAKEI, いしのようこ / Yoko ISHINO, 結城哲也 / Tetsuya YUKI, 天田益男 / Masuo AMADA, 宇野ポテト / Potato UNO, 梅垣義明 / Yoshiaki UMEGAKI, 黒沢年男 / Toshio KUROSAWA, 夏八木勲 / Isao NATSUYAGI, 菅田俊 / Shun SUGATA, 中西良太 / Ryota NAKANISHI, 今村涼子 / Ryoko IMAMURA, 井上茂 / Shigeru INOUE, 沼田爆 / Baku NUMATA, 高岡健二 / Kenji TAKAOKA, 岡田千代 / Chiyo OKADA, 大沢あかね / Akane OSAWA
ジャンル: ドラマ
鑑賞方法: DVD
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