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Thursday, June 7, 2012

はなれ瞽女おりん / Melody in Gray



恥ずかしながら本作を観るまで瞽女(ごぜ)のことを知らなかった。瞽女とは盲御前(めくらごぜ)の略で、鼓や三味線を弾き歌を歌って門付けをする盲目の女芸人の事だそう。本作の舞台は大正初期。瞽女は瞽女でも掟を破って男と寝たがために瞽女屋敷から追い出されてしまった岩下志麻演じる『はなれ瞽女』と原田芳雄演じるどこか影のある男の物語。

役柄上全編をとおして目をつむったままであっても、岩下志麻の演技は相も変わらず秀逸。樹木希林もはなれ瞽女を演じているが、こちらは目を開けたまま。誰が決めたか知らないがその設定は正しいかと思う。西田敏行や小林薫ら今はベテランとなった多くの俳優が若い演技を見せているが、西田敏行のコミカルさや小林薫の過ぎた演技が面白い。

瞽女を一括りで不幸な人などと言うつもりはないのだが、おりんの生い立ちをみるにこれを不幸と言わずにはいられない。そんなおりんの物語を北陸の冬のシーンに重ねて描写した前半は見ている私も心がどんよりとしていたのだが、男と出会ってからのシーンは夏の美しい風景と重ねて描かれており、少々短絡的な演出だが見ているこちらも不思議と気持ちが晴れてくる。鑑賞するに連れ気持ちがどんどんおりんに入って行ったせいか、山谷あって最後に迎えるラストシーンは悲しく受け入れがたい。それだけにラストに至るおりんの行動や心のプロセスをもっと知りたかった。

見終わった直後はピンとこなかったが、その後しばらくおりんについて考えてしまった。盲でこの世に生を受け、母親に捨てられ瞽女になり、愛する男には抱かれたいと望んでも叶わないのに、愛していない男は拒んでも拒み切れない。そして何気ない行為が束の間の幸せとその後の人生を壊してしまう。そんなおりんをとおして瞽女の世界を北陸の美しい映像で綴った作品である。

個人的には映画は楽しいものでなければ、と思うが、楽しくなければ映画じゃない、と言うのとは違う。本作は決して楽しい映画ではないが、大衆娯楽映画が提供する一刻の快楽とはまた違う、長く琴線に触れる何かを得ることが出来るだろう。(SS)


★☆

いつの時代にも軽率で無邪気な愛らしい女はいるもの。主人公のおりんちゃんは生まれた時から目が見えなくて、幼い頃に瞽女屋敷に引取られる事に。そこでは目の見えない女ばかりが集まって生活をしていて、三味線を弾いたり歌をうたって家々を回り、お米や野菜のおこぼれをもらって生計をたててるんだ。目は見えずとも唇にあてがった針に糸を通す事も、遠くからの訪問者も足音で誰が何人くるかさえ解る。そんな瞽女屋敷での絶対ルールは男と寝ない事。「男と寝たら、落とされる」女親分のかあさまが度々言う。

しかし、そこはおりんちゃん。言動がスキだらけのうえに若くて可愛い。そんなおりんちゃんを男どもが放っておくわけがなく、夜這いに襲われ男を知ってしまう。初めての感想は「なぁんて、男と寝るのは温い(ぬくい)もんだ…」だ。そこからおりんちゃんの人生の選択ミスが始まる。

幼少期に捨てられた寂しさを埋める様にゆきずりの男に体をゆるし、金をもらい、温めてもらう。避妊もせずに子どもができれば生み捨てる。そんな堕落した生活もある男に出会い変わってゆくが、まともな生活をしたのも束の間、また好色が災いして不幸へと。ラストシーンは今まで見た事のない、静かで衝撃的な画にぎょっとした。

北陸なまりのおりんちゃんが「ぬくめてくだせえ~あにさまぁ」とねだる姿はなんとも素直で可愛らしかった。微笑みながらおにぎりやまんじゅうをむさぼり食べるその姿も何とも愛らしく、男が守ってやりたいという気持ちが女のあたしにも解るようだった。

おりん。この響きがなんとも可愛くて、もし次に女の子ができたならば名付けてみようかと思うけど、この物語のように不幸になるようで怖いから、やっぱりやめようか。(YS) 


製作: 1977年 日本 117分
監督: 篠田正浩 / Mashiro SHINODA
製作: 
出演: 岩下志麻 / Shima IWASHITA,  原田芳雄 / Yoshio HARADA
ジャンル: ドラマ, ヒストリー
鑑賞方法: DVD

  

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