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Tuesday, March 25, 2014

メイドインジャパン



NHKがテレビ放送を開始したのが1953年2月1日。それから60年の節目の年ということで、『テレビ放送開始60周年記念ドラマ』として制作されたのが本作である("NHK開局"ではなく"テレビ放送開始"というところに留意)。『メイドインジャパン』というタイトルにNHKらしい重厚さを感じるとともに、ハゲタカチェイス-国税査察官など、秀逸な作品が多いNHKだけに、本作にも期待が高まる。主演は白い巨塔不毛地帯など硬派なタイトルの主役を多く演じたきた唐沢寿明。共演に高橋克実、國村隼、岸部一徳など。

日本を代表する大手電機メーカー『タクミ電機』の矢作は、財務部の柿沼や工場長の西山と共にとある場所へ呼ばれていた。そこで待っていたのはタクミ電機会長の譲原だった。譲原はメインバンクが3ヶ月内内に5000億円の債務を返済するよう迫ってきており、債務返済が滞った場合はメインバンクが撤退する、つまりタクミ電機は『余命3か月』と宣告された状態にあると3人に告げる。3人はこの危機的状況を打破するため、会長の特命再建チームを結成すべく招集されたのだった。矢作は早速チームリーダーとしてタクミ電機の倒産回避のために奔走するが、その矢先ヤマト自動車に対するリチウムイオン電池大量納入契約を中国の新興メーカーである『ライシェ』へ奪われてしまう。しかし、ライシェのリチウムイオン電池を詳しく調査するとタクミの開発した技術で作られている事が判明。ライシェと直談判を行うために中国へ飛んだ矢作だが、その前に現れた男は矢作のかつての盟友で、タクミ電機をリストラされた技術者の迫田だった…。

ハゲタカチェイス-国税査察官』『外事警察などなど、過去に観たNHK製作の秀逸なドラマ群を思い出して持った期待感は粉々に粉砕される。『メイドインジャパン』という壮大なタイトルそのものが無用な大風呂敷という感じだろう。ストーリーはさておき、人間ドラマの描写が浅く、日本経済に激震を及ぼす可能性の高い大企業の再建チームからは全く熱さが伝わってこない。チームの方針も二転三転し、最後は日中の特許訴訟かと思いきや、蓋を開けてみるとライバルが技術盗用をあっさりと認める始末。サブストーリーも稚拙で、人のせいにして問題と対峙することを避けてきた私怨に燃える新聞記者や、一方的な展開にイライラする矢作の離婚問題。何とか持ち込んだハッピーエンドでさえそのプロセスが不透明で最後まで消化不良。その上、マイコ、金井勇太、木下ほうかの3人の演技が余りに稚拙でもう観てられない。決して面白く無いという訳じゃないが、自分の中のNHK謹製ドラマ品質基準には合致しない。(SS)


製作: 2013年 日本
脚本: 井上由美子 / Yumiko INOUE
演出: 黒崎博 / Hiroshi KUROSAKI
出演: 唐沢寿明 / Toshiaki KARASAWA, 高橋克実 / Katsumi TAKAHASHI, 吉岡秀隆 / Hidetaka YOSHIOKA, 國村隼 / Jun KUNIMURA, 大塚寧々 / Nene OTSUKA, 酒井美紀 / Miki SAKAI, キムラ緑子 / Midoriko KIMURA, 刈谷友衣子 / Yuiko KARIYA, 金井勇太 / Yuta KANAI, マイコ / Maiko, 斎藤歩 / Ayumu SAITO, 中村靖日 / Yasuhi NAKAMURA, 平田満 / Mitsuru HIRATA, 及川光博 / Mitsuhiro OIKAWA, 岸部一徳 / Ittoku KISHIBE, 木下ほうか / Houka KINOSHITA
ジャンル: ドラマ
鑑賞方法: DVD
エピソード: 
 第1話『余命3か月の会社を救うため集まった7人の会社員の物語!』
 第2話『倒産の回避に立ち上がれ! 七人の侍と家族がものづくり日本の誇りをかけて闘う! 日本の危機に迫る第2夜』
 第3話かつての友は敵に男達の誇りをかけて運命の最終回〜倒産の危機は? 訴訟の行方は? 日本の未来に希望は』

天地明察 (映画)

★☆

冲方丁(うぶかたとう)の同名小説『天地明察』を映像化。それまで中国から伝えられた暦をそのまま使用していた江戸時代にあって、日本独自の暦を作るという壮大な事業に取り組んだ安井算哲の功績を描いた作品。監督に滝田洋二郎。主演はジャニタレの岡田准一。共演にもジャニタレの横山裕。他、笹野高史や宮崎あおい、珍しいところでプロレスラーの武藤敬司など。

将軍に囲碁を教える囲碁指南役の名家に生まれた安井算哲は、碁方よりも星の観測や算術の問題を解くことに一生懸命な青年であった。ある日時の将軍、徳川家綱の後見人である会津藩主の保科正之は、そんな算哲に日本全国において北極星の角度を計測し、その結果から緯度を決定する『北極出地』の任を命ぜられる。数年後、無事に北極出地を完了して帰京した算哲を次に待っていたのは、800年もの間使われていた中国暦のズレを修正し、新たな日本独自の暦を作るという壮大な事業の総責任者という大役であった。来る日も来る日も星や太陽の運行観測を行い改暦作業に取り組む算哲であったが、一方、暦を権威の象徴と考える朝廷は暦からすれば改暦作業そのものが目障りなことであった…。

基本的には史実に則ったストーリーであり、墨田本所の天体観測所が襲撃されるシーンやサブストーリーである本因坊道策との囲碁打ち、やり過ぎ感を感じる算哲の切腹シーンなど、エンターテイメント的脚色は多少あるが、地球が丸いことや時差という概念すら無かった江戸時代において、肉眼で太陽や月の運行を記録し、日食や月食を科学的に予測する手法がじっくりと正確に描かれていて、史実としても時代劇としても見応え充分。ただ、北極出地にて使用した北極星の角度計測器をピタリと止めるダイヤル部分に21世紀の3/8鉄製ネジがチラリと見えたシーンで少々がっかり。(SS)


製作: 2012年 日本 141分
監督: 滝田洋二郎 / Yojiro TAKITA
原作: 冲方丁『天地明察』 
出演: 岡田准一 / Junichi OKADA, 宮崎あおい / Aoi MIYAZAKI, 佐藤隆太 / Ryuta SATO, 市川猿之助 / Ennosuke ICHIKAWA, 横山裕 / Yu YOKOYAMA笹野高史 / Takashi SASANO, 岸部一徳 / Ittoku KISHIBE, 市川染五郎 / Somegoro KISHIBE, 武藤敬司 / Keiji MUTO, 中井貴一 / Kiichi NAKAI, 松本幸四郎 / Koshiro MATSUMOTO
ジャンル: ヒストリー, ドラマ
鑑賞方法: Blu-ray

ロックアウト / Lock Out



近未来の宇宙を舞台に描くSFサスペンス・アクション。凶悪犯罪者を閉じ込める宇宙刑務所が舞台という、ひと昔前ならインパクトがあっただろうストーリー設定も、はたして今はどうだろう。主演はL.A.コンフィデンシャルのガイ・ピアース。製作はフランス映画界の巨匠、リュック・ベッソン。

西暦2079年。宇宙に実験的に作られた刑務所『MS-1』は『コールドスリープ』と呼ばれる技術を用いて、500人にも及ぶ凶悪な囚人達をまるで冬眠状態のようにして収監しており、厳重な警備体制のもと未だかつて脱獄した者はいない。そんなある日、アメリカ合衆国大統領の娘であるエミリーがMS-1の視察に訪れ、囚人の一人であるハイデルと面談している最中、ハイデルは隙をついてSPの銃を奪い逃亡。中央制御室へと辿り着いたハイデルは全囚人達のコールドスリープを解除した。凶悪な囚人たちが刑務所内に溢れだす最悪の状況の中、合衆国政府は元CIAの敏腕エージェント"スノー"にエミリーの救出を依頼する…。

傍若無人の敏腕エージェントを演じるのは端正なマスクのガイ・ピアース。フランス製作のハリウッド風作品にイギリス生まれのオーストラリア人俳優を主演に迎えたが、結果的にはミスキャスト。悪い男は似合いそうだが、髭をいくら伸ばしたところで粗暴な役は似合わない。それはさておき、ストーリー的には面白く、大量の囚人がひしめく刑務所に単身で飛び込むスノーの活躍、エミリーとの逃亡や掛け合いに加えて、囚人を束ねる極悪兄弟が仕掛ける様々な罠など、テンポの良い展開が続くが、最後の脱出シーンが全てを台無しにしてしまった。宇宙から生身の人間が大気圏突入して地球に落ちてきたのにそりゃねぇよ。『終わり悪ければ全て悪し』とは言えない面白さを内包する作品だけに少々残念。(SS)


製作: 2012年 フランス 95分
監督: スティーブン・セイント・レジャー / Stephen Saint LEGER, ジェームス・マザー / James MATHER
製作: リュック・ベッソン / Luc BESSON
出演: ガイ・ピアース / Guy PEARCE, マギー・グレイス / Maggie GRACE, ヴィンセント・リーガン / Vincent REGAN, ジョセフ・ギルガン / Joseph GILGUN, レニー・ジェームズ / Lennie JAMES, ピーター・ストーメア / Peter STORMARE
ジャンル: SF, サスペンス, アクション
鑑賞方法: Blu-ray

下町ロケット (TV)



慶応大学法学部卒業後に元銀行員の経験を生かしたミステリー『果つる底なき』や半沢直樹シリーズなど、ヒット作を送り出し続ける池井戸潤の小説下町ロケットをWOWOWが映像化。ちなみに池井戸潤はAmazon.co.jpあ行の著者のベストセラー1位である。主演は何故かWOWOWドラマの主演最頻出俳優の三上博史。共演には渡部篤郎、寺島しのぶなど。

日本のモノづくり中小企業の一大集積地である東京都大田区。精密機械の製造を手掛ける佃製作所の2代目社長である佃は、主要取引先である京浜マシナリーから突然取引終了の通知を受ける。当面の運転資金を手当するためメインバンクに融資を申し込むが、業績見通しの不透明さから渋られてしまう。そこに追い打ちをかけるように、精密機械製造大手のナカシマ工業から佃製作所の主要製品に関する特許侵害で訴えられてしまう。メインバンクからの融資が無い状況下で、特許裁判が長期化すれば会社の倒産は避けられない状況まで追い込まれたそんな矢先、日本の重工業界を代表する帝国重工より佃製作所が保有する特許を20億円で買取りたいというオファーが舞い込む。20億という大金は直面する会社存続の危機を乗り切るには十分すぎるほどであり、幹部社員は当然このオファーを受けるものと思っていたが、社長の決断は予想外のものだった…。

個人的にWOWOW製作のドラマには外れがないのだが、本作はラストのエンディングまで手抜きは勿論のこと一切のムダもなく、WOWOWドラマ史上最高傑作と言っても過言ではない完成度 (ドラマWを全部見たわけではないのだが)。三上博史の独特の演技は過去にWOWOWで演じた刑事役よりもこういった熱い男の役が良く似合うし、渡部篤郎の熱いエンジニア役も最高の適役。一方、敵役に升毅、眞島秀和や佐藤二朗という配役も絶妙で、キャスティングの妙が光る。

『手作業は所詮手作業。人間の感覚なんて思ってるほどあてにならない。』モノづくりに関わる者にあるまじき発言に喰い付く、佃の社員達の熱さが観ているこちらにも伝わってくる。大なり小なりエンジニアリングに関わってきた人間ならこのストーリーはたまらないはず。本作を観て泣かない奴はエンジニアに向いていないと断言する。(SS)


製作: 2011年 日本 WOWOW
監督: 鈴木浩介 / Hiroyuki SUZUKI, 水谷俊之 / Toshiyuki
原作: 池井戸潤 / Jun IKEIDO『下町ロケット』
出演: 三上博史 / Hiroshi MIKAMI, 寺島しのぶ / Shinobu TERASHIMA, 渡部篤郎 / Atsuro WATABE, 池内博之 / Hiroyuki IKEUCHI, 綾野剛 / Go AYANO, 升毅 / Takeshi MASU, 田村亮 / Ryo TAMURA, 光石研 / Ken MITSUISHI, 堀部圭亮 / Keisuke HORIBE, 古谷一行 / Ikko FURUYA, 佐藤二朗 / Jiro SATO, 螢雪次朗 / Yukijiro HOTARU, 小木茂光 / Shigemitsu OGI
ジャンル: ドラマ
鑑賞方法: DVD

Monday, March 24, 2014

スリーパーズ (映画) / Sleepers (film)



ロレンツォ・カルカテラによる同名小説の映画化作品である本作は、主人公の名が"ロレンツォ・カルカテラ"である事から推察されるとおり、原作者自身が経験した事実に基づく物語であると、作品冒頭でも述べられている。ほんの些細な出来心から起こした悪戯により4人の少年の人生が大きく変えられていくストーリーはまさに『事実は小説よりも奇なり』。主演にジェイソン・パトリック、ブラッド・ピット。共演にはロバート・デ・ニーロにダスティン・ホフマンと豪華な顔ぶれにも注目したい。

ニューヨーク・マンハッタンのある暑い夏の日。ふと目に入ったホットドッグの屋台を巡る些細な悪戯により過失傷害事件を起こしたロレンツォ、マイケル、トミー、ジョンの4人の少年達。送致された少年院で彼らを待っていたのは看守による性的虐待の日々だった。心に深い傷を負った4人の少年たちは、虐待の事実をそれぞれの心の奥底にしまい込むことにした。それから数年後。大人になったジョンとトミーは、ふと立ち寄ったバーで偶然に看守と出会ってしまう。かつて自分たちを虐待した看守を目の前にしたジョンとトミーはある決意をする…。

青春ドラマであり法廷サスペンスでもあるがいずれも中途半端。マンハッタンの少年時代に長い時間を割くもその中身は薄く、少年達の人物像はぼんやりとしたまま。少年院時代についても残虐性が意図的に抑えられて描かれているようで、どっちつかずの展開に少々ジリジリする。さらに、少年院を出た後から大人になるまでの間は完全に省略されているので、観ている側としては大人になった4人の境遇を単純に受け入れるしか無い。やがてドラマは突然に復讐劇へと変わり、山場の法廷劇場を迎えるが、前述したような中途半端感からか否か、俯瞰図でも観ているような感じがして感情移入する向きは全く感じられない。最後の法廷ロジックは浅はかで、最後まで入り込めない作品。(SS)


製作: 1997年 アメリカ 147分
監督: バリー・レヴィンソン / Barry LEVINSON
原作: ロレンツォ・カルカテラ / Lorenzo CARCATERRA『Sleepers』
出演: ジェイソン・パトリック / Jason PATRIC, ブラッド・ピット / Brad PIT, ロン・エルダード / Ron ELDARD, ビリー・クラダップ / Billy CRUDUP, ロバート・デ・ニーロ / Robert De NIRO, ダスティン・ホフマン / Dustin HOFFMAN, ケヴィン・ベーコン / Kevin BACON, ヴィットリオ・ガスマン / Vittorio GASSMAN
ジャンル: サスペンス, ドラマ
鑑賞方法: DVD

Friday, March 21, 2014

震える牛 (TV)



偽装牛肉やBSEなど社会を騒がせた食品問題をテーマとした相場英雄の同名ベストセラー小説震える牛』のWOWOWによる映像化作品。2011年の下町ロケット(ドラマ)などWOWOW+三上博史の組み合わせが多いようだが、本作も同様で主演の刑事に三上博史。WOWOW制作のドラマを観るのは本作が初めてだが、前述の下町ロケット(ドラマ)パンドラなど、いずれの作品も評判が高く、WOWOWのオリジナルドラマに対する印象は高い。共演には、小林薫、小野寺昭、吹石一恵など。

警視庁継続捜査班の田川は、5年前に中野駅前の居酒屋で起きた強盗殺人事件に疑問を抱き再捜査を始めた。事件は覆面姿の犯人が店員から金を奪い、店の奥にいた獣医師や暴力団関係者を殺害したというもので、捜査初期段階では金目当ての外国人による犯行で怨恨の線は無いとされたが、田川の捜査の結果、二人の被害者ともに食肉加工会社のミートボックスに関わっていたという共通点が見つかる。金目当てではなく2人の殺害が犯人の真の目的ではないかと疑いを持った田川。一方、報道記者の鶴田もミートボックスの食品偽装疑惑を追っていた。一見、無関連の殺人事件と食肉偽装事件の裏には、巨大企業の嘘が隠されていた…。

迷宮入りしていた殺人事件の再捜査がいつしか食肉偽装やBSEといった社会的問題に波及する、派手さの少ない硬派な作品に仕上がっているが、警察と報道機関という公私の両面から迫る謎解きの面白さや、最後のトリック的な要素もしっかり織り込んでおり、エンターテイメントとしても優秀。キャスティングも秀逸で、特に悪役の古田新太が持つ天然の気持ち悪さが食品偽装を行う社長の役にピッタリとハマっている。個人的には秀逸なドラマといえばNHKだったが、WOWOWも全く侮れない。(SS)


製作: 2013年 日本 WOWOW
原作: 相場英雄 / Hideo AIBA『震える牛』
監督: 鈴木浩介 / Hiroyuki SUZUKI
出演: 三上博史 / Hiroshi MIKAMI, 吹石一恵 / Kazue FUKIISHI, 小野寺昭 / Akira ONODERA, 平山浩行 / Hiroyuki HIRAYAMA, 小林薫 / Kaoru KOBAYASHI, 木村文乃 / Fumino KIMURA, 古田新太 / Arata FURUTA, 温水洋一 / Yoichi NUKUMIZU, 遠藤要 / Kaname ENDO, 羽場裕一 / Yuichi HABA, 佐野史郎 / Shiro SANO, 竜雷太 / Raita RYU
ジャンル: サスペンス
鑑賞方法: DVD

Monday, March 10, 2014

アルゴ / Argo



アカデミー賞作品賞やゴールデングローブ賞作品賞など2012年の主要アワードを総なめした本作は、1979年にイランで起きたアメリカ大使館人質事件にて、CIAが実際に行った人質救出作戦を元に描いたサスペンス大作。監督兼主演にベン・アフレック。共演にブライアン・クランストン、アラン・アーキンなど。

イラン革命の真っ只中の1979年。イスラム過激派を含む多くの民衆が在イラン・アメリカ大使館を占拠して、52人の職員を人質にとる事件が発生する。しかし、占拠直前に6人のアメリカ人職員が秘かに脱出し、カナダ大使公邸に逃げ込んでいた。既に空港を含めたテヘラン市街地はイスラム過激派の監視下におかれ、6人が見つかるのは時間の問題だった。そこで国務省から協力を求められたCIAの人質奪還専門家であるトニー・メンデスは『アルゴ』という架空の映画をでっち上げ、6人をロケハンのスタッフとして出国させる作戦を立案する。ハリウッドの著名な映画関係者を作戦の協力者として得たトニーは「ニセ映画でも大ヒットを狙うぞ!」と豪語する協力者とともに、『アルゴ』の製作発表を盛大に行うが…。

史実に忠実か否かはさておき、こうした『事実は小説よりも奇なり』を地で行く極秘作戦がアメリカ・カナダの2国の協力のもとに実際に行われたとは驚く限り。イスラム過激派に廻りを囲まれた中での生死をかけた作戦だが、プロフェッショナルとしての自信を持って大胆にかつ慎重に行動するトニーをベン・アフレックが熱演しており、イランから脱出するその瞬間まで観ている者をドキドキさせるストーリー展開が秀逸。一方、厳戒態勢下にあるテヘラン市中を6人と共に歩き回るシーンや、大統領による作戦中止命令、空港におけるクライマックスなど、少々脚色が強い箇所もあるが、そこは必要なエンターテイメントだろうと解釈する。しかし、作品としてはまぁまぁ面白いのだが、各アワードを総取りするに値するか、と問われると、2009年にアカデミー賞で6冠に輝いたハート・ロッカーのように、そこまでの価値を見出だせないのだが。(SS)


製作: 2012年 アメリカ 120分
監督: ベン・アフレック / Ben AFFLECK
製作: ベン・アフレック / Ben AFFLECK, ジョージ・クルーニー / George CLOONEY
出演: ベン・アフレック / Ben AFFLECK, ブライアン・クランストン / Bryan CRANSTON, アラン・アーキン / Alan ARKIN, ジョン・グッドマン / John GOODMAN, ヴィクター・ガーバー / Victor GARBER, テイト・ドノヴァン / tate DONOVAN
ジャンル: サスペンス, ドラマ
鑑賞方法: Blu-ray

プロメテウス / Prometheus

★★☆

エイリアンシリーズのリドリー・スコット監督作品は、人類の起源という壮大なテーマのSFサスペンス。この手のテーマは取扱が難しいと思う。一歩間違うと非科学的な事象を並べるだけの陳腐な作品となってしまうし、かといって現実路線を追うといずれ壁に突き当たる。現実に解明されていない問題だけに、科学的アプローチで生じるさまざまな疑問の隙間にオカルト要素が入り込み、結果としては宗教や様々な神といった創造主に逃げこむのが多いのだが本作は如何に。主演はミレニアムシリーズで全身ピアスにドラゴン・タトゥーの女を演じたノオミ・ラパス。他、シャリーズ・セロンやガイ・ピアースなど。

科学者のエリザベスは古代遺跡にて古代人が天の星を指し示している壁画を発見した。壁画は時代も場所も異なるそれぞれが酷似していることから、それらを地球外知的生命体からの『招待状』と分析した彼女は、巨大企業ウェイランド社が出資した宇宙船プロメテウス号で地球を旅立つ。2年以上の航海を経て未知の惑星にたどり着いたエリザベスは、人工構造物のような建造物を発見し早速調査を開始するが、中で発見したのは地球の科学常識を覆すものだった…。

冒頭の謎の映像が既にネタバレとまでは言わないが、本作の方向性を如実に表している。しかし、この映像を見て一瞬ツリー・オブ・ライフを思い出しゾクッとした。ということで、本作は唐突感と説明不足が満載で一体何を伝えたいのか良く分からない作品。『招待状』と分析された理由の核心は不明だし、2年間の旅でたどり着いた謎の惑星はなんと人工構造物だらけで、地球外生命体の存在は明らかだが、誰もさして驚いていない様子。いきなりエイリアンだとか、主人公の窮地を救う手術カプセルは男性専用なのに結局は手術するだとか、説明不足と唐突な展開を積み重ねるストーリーに観ているこちらの心が疲れてしまう。個人的には、アンドロイドの数々の謎の行動、ウェイランド社のじいさんが問答無用で葬られるシーン、エリザベスの推察を信じて急に正義感を出しつつ命を投げ出した船長とその仲間達、が完全消化不可能の3大シーン。しかし、なんでノオミ・ラパスなのだろう。どうせならシャリーズ・セロンのほうがいいかと思うが。そして最も謎なキャスティングはガイ・ピアース。よっぽどのファンでも無い限り、ガイ・ピアースを劇中で見つけることは不可能だろう。そんな中、冷徹なアンドロイドを演じたマイケル・ファスベンダーの演技が秀逸で強く印象に残る。(SS)


製作: 2012年 アメリカ 124分
監督: リドリー・スコット / Ridley SCOTT
製作: リドリー・スコット / Ridley SCOTT
出演: ノオミ・ラパス / Noomi RAPACE, マイケル・ファスベンダー / Michael FASSBENDER, シャーリーズ・セロン / Charlize THERON, イドリス・エルバ / Idris ELBAガイ・ピアース / Guy PEARCE, ローガン・マーシャル・グリーン / Logan Marshall GREEN
ジャンル: SF, サスペンス, アクション
鑑賞方法: Blu-ray

ブラッド・ワーク (映画) / Blood Work (film)



マイケル・コナリー原作わが心臓の痛み (原題: Blood Work)をクリント・イーストウッドが監督、製作、主演の3役で映像化。コナリー原作の映像化作品ではリンカーン弁護士が近作かと思うが、大ヒット作とは言えないもののアウトローの弁護士が活躍する見応えある作品だったのを思い出す。これに、ここ最近は俳優よりも監督業の方が板についてきた、と言えるほどヒット作を飛ばすイーストウッドとの組合せは非常に楽しみだが、主演こそイーストウッド自身が務めるものの、共演俳優陣はジェフ・ダニエルズくらいが有名所であとは華がない。本作の出来にはあまり関係ないが、予算が足りなかったのだろうか。

FBIの心理分析官だったテリー・マッケイレブは2年前、連続殺人犯のコード・キラーを追跡中に心臓発作で倒れてしまい犯人を捕り逃してしまう。その後、心臓移植手術を行い一命を取り留めたテリーはFBIを退職して隠居生活を送っていたが、そんな彼の前にある日、グラシエラと名乗る女性が突然現れ、自分の姉を殺害した犯人を探してほしいとテリーに依頼する。しかし、FBIを引退し静かな生活を送っていたテリーは彼女の依頼を断るが、彼女はテリーの心臓がその殺された姉のものであると伝える。自分の心臓に絡む事件だけに、テリーは自分なりに事件の調査を行うべく警察へ足を向けたが、更に捜査を進めると意外な事実が発覚する…。

撮影当時で既に72歳という高齢は見た目にも誤魔化せず、心臓病で2年前に引退したFBI捜査官をイーストウッド自身が演じるのは少々無理があるが、本作が持つ落ち着いた雰囲気と急がず無理をしない大人のスピード感で展開するストーリーに何気にマッチしているのは監督としてのイーストウッドの手腕か。所轄の刑事が見つけられなかった事実を次々と発見していくテリーだが、正直なところ"テリーが気付いた"というよりも"所轄刑事の捜査が杜撰だった"というのが正しいところ。所轄刑事を必要以上にバカっぽく描いているのはそんな理由からだろう。こうした設定やテリー自身に絡んでくる色恋話などが、前述した落ち着いた雰囲気とスピード感にマッチしていないのが残念なところ。(SS)


製作: 2002年 アメリカ 110分
原作: マイケル・コナリー / Michael CONNELLY『我が心臓の痛み (原題: Blood Work)』
監督: クリント・イーストウッド / Clint EASTWOOD
製作: クリント・イーストウッド / Clint EASTWOOD
出演: クリント・イーストウッド / Clint EASTWOOD, ジェフ・ダニエルズ / Jeff DANIELS, ワンダ・デ・ヘスース / Wanda De JESUSティナ・リフォード / Tina LIFFORD, ポール・ロドリゲス / Paul RODRIGUEZ, ディラン・ウォルシュ / Dylan WALSH, アンジェリカ・ヒューストン / Angelica HUSTON
ジャンル: サスペンス, ドラマ
鑑賞方法: Blu-ray

Friday, March 7, 2014

脳男 (映画)



江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於による脳男の映画化作品。原作は未読ながら興味を惹かれる造語のタイトルが気になっていた。監督は瀧本智行。主演はジャニタレの生田斗真。個人的にジャニタレは余り好きではないのだが、この方はジャニーズにしては珍しく、アイドルというよりも俳優風情が強い感じがするのは自分だけだろうか。共演は江口洋介、松雪泰子、二階堂ふみなど。

刑事の茶屋は無差別連続爆破事件の容疑者が潜伏していると思われる倉庫へ踏み込んだものの、そこに居たのは身元不明の男一人だけで、彼以外の者を取り逃がしてしまう。連続爆破事件の共犯者と思われるこの男は、名を鈴木一郎と名乗ったが、その犯行の異常性から精神鑑定を受けることになった。しかし、鑑定を進めるにつれ、一切の感情を表へ出さない鈴木に興味をもった鑑定医は彼の過去を調べ始めた。すると、彼は天才的な頭脳と驚異的な肉体を併せ持ちながら、呼吸以外の自発的行動を取ることが全く出来ず、『脳男』と呼ばれていたことが分かった…。

猟奇的な連続殺人犯の犯行動機がよく分からない。共犯者も含めてその辺に説明不足と曖昧さがあるが、別に主人公ではないので、省略されててもストーリーの核にはあまり影響ないのかもしれない。映像的には多量の火薬を使った爆破シーンの映像処理が秀逸で日本映画には珍しい。にも関わらず、登山のシーンにおける映像処理は非常にチープで興醒めする。こういう細かいところの品質が全体印象に与える影響は小さくないと思う。脳男の存在には無理を感じないしリアル感も十分あるが、幾ら無痛症だとしてもあんなに派手に車に轢かれたら幾らなんでも死んでしまうだろう。最後の山場にああいうアンリアル感満載のシーンを入れ込むあたりが本作の脚本レベルを示しているが、勧善懲悪では片付けられない脳男の存在が圧倒的にユニークで、原作の質の高さに救われている。(SS)


製作: 2013年 日本 125分
原作: 首藤瓜於 / Urio SHUDO『脳男』
監督: 瀧本智行 / Tomoyuki TAKIMOTO
出演: 生田斗真 / Toma IKUTA, 松雪泰子 / Tomoko MATSUYUKI, 江口洋介 / Yosuke EGUCHI, 二階堂ふみ / Fumi NIKAIDO, 太田莉菜 / Rina OTA, 染谷将太 / Shota SOMEYA, 勝矢 / KAtsuya, 甲本雅裕 / Masahiro KOMOTO光石研 / Ken MITSUISHI小澤征悦 / Seietsu OZAWA, 石橋蓮司 / Renji ISHIBASHI, 夏八木勲 / Isao NATSUYAGI
ジャンル: クライム, サスペンス, アクション
鑑賞方法: DVD

Tuesday, March 4, 2014

ストロベリーナイト - アフター・ザ・インビジブルレイン (TV)



誉田哲也の姫川玲子シリーズ作品「シンメトリー」および「感染遊戯」より、5本の短編を原作としたスペシャルドラマ。タイムライン的にはタイトル通りで、劇場版のストロベリーナイトのその後、姫川はんの刑事達のそれぞれを描いたショートドラマ集。姫川が主役の『アンダーカヴァー』、菊川の『東京』、葉山の『沈黙怨嗟 / サイレントマ―ダー』、井岡と日下の『左だけ見た場合』と勝俣の『推定有罪 / プロバブリィギルティ』の5話で構成されている。

それぞれのあらすじはここでは割愛するが、相互関連は無く葉山と勝俣のストーリーが薄く交差するぐらいで、基本的には登場人物が変わらないだけの全く別物のドラマとなっている。ドラマのパイロット版から連続ドラマ、そして映画版と見てきたが、映画版のラストにおける姫川班の解散は少々唐突だったし、下世話なところでは姫川と菊川の行く末も気になるところ。しかし、そうしたファンの気持をフォローアップする意図は本作は全く織り込まれていない。

ショートドラマだけに、各話とも短くポンポンと進んでいくが、そんな中でも菊川が主人公の『東京』は短いながらも、濃い人間ドラマを詰め込んだ秀逸作。かと思えば、姫川の『アンダーカヴァー』は、一体何をやりたかったのか良く分からない作品で、ドラマ品質のばらつきが大きい。『ストロベリーナイト』シリーズ次作までの繋ぎならまだしも、仮にシリーズ最終作だとしたら少々寂しい感じがした。(SS)

製作: 2012年 日本 127分
監督: 佐藤祐市 / Yuichi SATO
原作: 誉田哲也 / Tetsuya HONDA「インビジブルレイン」
出演: 竹内結子 / Yuko TAKEUCHI, 西島秀俊 / Hicetoshi NISHIJIMA小出恵介 / Keisuke KOIDE遠藤憲一 / Kenichi WATANABE, 生瀬勝久 / Katsuhisa NAMASE, 武田鉄矢 / Tetsuya TAKEDA, 國村隼 / Jun KUNIMURA, キムラ緑子 / Midoriko KIMURA, 竜雷太 / Raita RYU, 光石研 / Ken MITSUISHI, 大高洋夫 / Hiroo OTAKA, 入江雅人 / Masato IRIE, 杉本哲太 / Tetta SUGIMOTO
ジャンル: TV, サスペンス
鑑賞方法: DVD