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Tuesday, December 25, 2012

麒麟の翼 (映画)



加賀恭一郎シリーズとして有名な東野圭吾原作の同名小説を元に、主演に阿部寛を迎えて映画化したミステリー作品。原作小説どころか、加賀恭一郎シリーズ自体が未読なので、原作については一切コメンできないのだが、これに加えて、『新参者』という同シリーズのTBS製作TVドラマもあるようだがこれも未鑑賞。どうりで、本作の製作がTBSな訳だ。本作は日本の国道の起点でもある東京都中央区の日本橋に実際に存在する『麒麟の翼』をキーとして、そこで起きた殺人事件の捜査と、日本橋という街の素顔、事件の意外な真相とそれによって顕在化した切ない人間模様を描いたミステリー・ドラマ。

ある日、日本橋の翼のある麒麟像の下で男性の刺殺体が発見される。被害者である青柳武明は死の直前、腹部を刺されながら誰に助けを求めることもなく、8分間も歩き続け、縁もゆかりもない日本橋までやって来るという不可解な行動をとっていた。一方、容疑者には、青柳のバッグを持って現場から逃走中に車に轢かれて意識不明に陥った若者・八島冬樹が浮上。恋人・中原香織が懸命に無実を訴えるも、事件は八島の犯行としてあっけなく解決するかに思われた。そんな中、日本橋署の刑事・加賀恭一郎はコンビを組む松宮脩平とともに独自の捜査を進めていくが…。

タイトルの『麒麟の翼』とは何とも読者や聴衆の心をツカむのが上手いタイトルだなと。麒麟という想像上の動物に翼を付けた荘厳なモニュメントが、これまた日本の道路元標が埋め込まれた歴史ある日本橋と地にあるというだけで、歴史地理好きや道路好きの興味をくすぐる。そして、そこで起きた殺人事件と日本橋界隈の歴史ある神社仏閣との意外な関係…と、ツカミとしては十分。しかし、原作や脚本の質に対して肝心の映像が負けていると感じる。捜査本部や日本橋界隈での映像など、マスクをかけてもう少し映像に重厚感を出せば良いと思うし、出演者も新垣結衣や溝端淳平、黒木メイサなど出演者ありきで配役してしまった感が否めず、TBS製作のちょっと豪華なテレビドラマという所から抜けきってないのが残念。(SS)


製作: 2012年 日本 129分
監督: 土井裕泰 / Hiroyasu DOI
製作: 濱名一哉 / Kazuya HAMANA
出演: 阿部寛 / Hiroshi ABE, 新垣結衣 / Yui NIIGAKI, 溝端淳平 / Junpei MIZOBATA, 松坂桃李 / Tori MATSUZAKA, 中井貴一 / Kiichi NAKAI, 山崎努 / Tsutomu YAMAZAKI, 黒木メイサ / Meisa KUROKI, 劇団ひとり / Gekidan-Hitori, 鶴見辰吾 / Shingo TSURUMI, 松重豊 / Yutaka MATSUSHIGE, 田中麗奈 Reina TANAKA
ジャンル: ミステリー
鑑賞方法: Blu-ray

シャッター・アイランド / Shutter Island



マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオの組み合わせで送るミステリー・サスペンス。絶海の孤島、シャッター・アイランドにそびえ立つ精神病を患った犯罪者のみを収容する施設を舞台に、施設から行方不明になった女性の捜索に訪れた連邦保安官が、施設の警務官や医師達の不審な言動と行動に悩まされつつ、次第に大きな核心に迫っていく様を、ブルーのフィルターが掛かった重厚な映像の元に描き出す。

ボストン沖の孤島、シャッター・アイランドには、精神を患った犯罪者を収容するアッシュクリフ病院があり、患者は皆厳重な監視下におかれていたが、ある日レイチェルという女性患者が突然行方不明になる。事件の捜査のため、連邦保安官であるテディがその相棒チャックと共にシャッター・アイランドに派遣された。上陸した2人は、医師やナース、患者たちへの聞き込みを開始するが、テディはレイチェル失踪事件とは無関係な、レディスなる人物についての質問を繰り返す。実は、テディとレディスには過去にある因縁があり、この病院にレディスが収容されていると知ったテディは、復讐の為にこのシャッター・アイランドへやってきたのだった…。
公開当時のキャッチコピーは「衝撃のラスト」で、上映前には今やシベリア超特急の専売特許となり、使用するのに躊躇する「この映画のラストはまだ見ていない人にはけっして話さないでください」や「登場人物の目線や仕草にも注目しましょう」という旨のテロップが入るという作品。そもそも映画というのは素直に楽しむものであって、必死に考えて謎解きをするものではないような気がするが、そういう事に魅力を感じる方にはおあつらえ向きの作品。しかし、勘の良い人だったら見てる途中やそもそもの映画の設定を読んだだけでも、本作の『衝撃のラスト』に気付くかもしれない。しかし、気づいた後、もしくは二度目の鑑賞でもそれなりに楽しめるのが本作の良い所で、一粒で二度美味しいを地で行く作品。なお、本レビューを書くのは二度目に観た後なのだが、一度目に映画館で観た時は3つ星かそれ以下の低評価にも関わらず、二度目に観た後は4つ星となった。つまり、勘の良い人ほど二度観るべき。(SS)


製作: 2010年 アメリカ 138分
監督: マーティン・スコセッシ / Martin SCORSESE
製作: 
出演: レオナルド・ディカプリオ / Leonardo DiCAPRIO, マーク・ラファロ / Mark RUFFALO, ベン・キングスレー / Ben KINGSLEY, ミシェル・ウィリアムズ / Michelle WILLIAMS, エミリー・モーティマー / Emily MORTIMER, マックス・フォン・シドー / Max Von SYDOW, パトリシア・クラークソン / Patricia CLARKSON
ジャンル: ミステリー, サスペンス
鑑賞方法: 映画館, DVD

Saturday, December 15, 2012

007 #23 スカイフォール / 007 #23 Skyfall



1962年公開のドクター・ノオから数えること第23作目の本作は,そのドクター・ノオから50年目に製作・公開された節目の作品でもある。主演はシリーズ3作目となるダニエル・クレイグ。

物語はMI6のエージェントが殺害され、MI6がNATOを通して世界中のテロ組織に密かに送り込んでいるスパイのリストが入ったハードディスクが盗まれる事態から始まる。事件現場に到着したボンドは、息も絶え絶えの仲間のエージェントの命を救うことも、出血を止める事すらも許されず、MによりHDDの確保を指示される。舞台はトルコの市街地。お約束のカーアクションに続く、バザールの屋根で繰り広げられバイクチェイスは本作でも最大の見もの。車からバイク、列車と逃げる犯人も遂にボンドに追いつかれ、最後は走る列車の屋根の上で緊迫する格闘が続くが、作戦は思わぬ形で失敗することになる...。

3作目となるダニエル・クレイグのボンドは、巷やイギリスの批評家からは概ね良い評価を受けているようで、シリーズ最高のヒット作というキャッチコピーも嘘ではないのだろう。しかし、本作は個人的にはダニエル・ボンドの中でワースト作品。序盤のトルコのバザールの屋根で繰り広げられるバイクチェイスから列車の屋根でのアクションが本シーンのツカミで最高の山場。以降は、火薬の量で勝負した画像が続くのみ。いつもは、イギリス人らしい小気味良いジョークの一つや二つが入り、ニヤリとさせられるのだが、それも無し。ダニエル・ボンドでは初出演となる久々登場のQがボンドに渡す道具は本人認証機能付きの銃と発信機のみ。しかも、ペン型爆弾は古いと言いやがった。シリーズにおけるQの存在価値は、ペン型爆弾とかワイヤーが仕込まれた時計とか、イグノーベル賞狙いかと思わせるスパイグッズにあったんじゃないのか。ストーリーも首を傾げるところが多く、特に上海からマカオ、そしてUKに戻り、最後の決戦に至るあたりは、そこまで場所を変えて敵と対峙する合理的な理由が見つからず困ってくる。プロパンガスあるなら最初からそれで戦えよと。

長崎の軍艦島がロケ地として出てる。この島は映画に向いている島だと思うが、トルコのバザールもよく映画で使われる。記憶するところでは、ゴースト・プロトコルやザ・バンクなど。皆が走りまくってるので、屋根が大丈夫か心配になる。(SS)


製作: 2012年 イギリス 143分
監督:  サム・メンデス / Sam MENDES
製作: カラム・マクドゥガル / Callum McDOUGALL
出演: ダニエル・クレイグ / Daniel CRAIG, ジュディ・デンチ / Judi DENCH, ハビエル・バルデム / Javier BARDEM, レイフ・ファインズ / Ralph FINNES, ベン・ウィショー / Ben WISHAW
ジャンル: アクション, スパイ, サスペンス, 007
鑑賞方法: 映画館

Wednesday, December 5, 2012

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン (映画) / Catch Me If You Can (film)



フランク・アバグネイル・ジュニア氏 (Frank William ABAGNALE, Jr.) は元・天才詐欺師で、現在はFBIに捜査協力を行う銀行詐欺および偽造小切手摘発の権威である一方、偽造防止小切手の発案者としても知られている人物である。そのアバグネイル氏による自伝小説『Catch Me If You Can』を原作として、主人公にレオナルド・デカプリオ、そしてアバグネイルを追いかけるFBI捜査官カール・ハランティにトム・ハンクスを起用し、スティーヴン・スピルバーグによる監督で製作された映画作品である。

物語はそのフランクがまだ高校生だった頃から始まる。フランクの父は地元でも名のとおる高名な人物でフランクは父を心から尊敬していたが、その父が経営する店が国税局の査察捜査を受けた事を発端に幸せだった一家は崩壊し始める。そしてある日突然両親が離婚するすると聞いた時、フランクはあまりのショックで家を飛び出してしまった。一文無しのフランクだったが、生きるために父が16歳の誕生日に作ってくれた小切手帳を偽造して少額の小切手詐欺を働くようになる。しかし、フランクの貧相な風貌や年齢から相手にしてくれない銀行ばかりだった。そんなある日、彼はホテルでパンナム航空のパイロットを見かけた時にふと気付いた。早速パイロットになりすまして銀行を尋ねると、その風貌を見て信用し誰もが騙された。これに味をしめたフランクは偽造小切手を乱発し巨額の資金を手に入れていく。一方、偽造小切手による詐欺事件を捜査していたFBI捜査官のカール・ハランティは、フランクが振り出す小切手を手掛かりにして、いまだ姿の見えぬフランクを徐々に追い詰めていた…。

この手の作品にありがちな勧善懲悪という訳でもなく、かと言って天才詐欺師を賛美するような作品でもない。言うならば、悪事を働いた詐欺師とその詐欺師を追いかけるFBI捜査官の両方がハッピーエンドを迎えるという面白いストーリーを持つ作品で、最後までストレスなく鑑賞できる。敢えて言えば、小切手詐欺の被害者である銀行が可哀想ではあるが。原作は未読だが、総額数百万ドルの小切手詐欺をテーマにした作品であるので、描き方によってはもう少し重い感じになったかもしれないのだが、全体的にコミカルかつ軽妙なタッチで描かれ、148分と長めの作品ながら最後まで気持よく観ることが出来る秀逸作。(SS)


製作: 2002年 アメリカ 148分
監督: スティーヴン・スピルバーグ / Steven SPIELBERG
製作: スティーヴン・スピルバーグ / Steven SPIELBERG
出演: レオナルド・デカプリオ / Leonardo DICAPRIO, トム・ハンクス / Tom HANKS, クリストファー・ウォーケン /  Christopher WALKEN, マーティン・シーン / Martin SHEEN, ナタリー・バイ / Nathalie BAYE, エイミー・アダムス / Amy ADAMS, ジェニファー・ガーナー / Jennifer GARNER
ジャンル: クライム, コメディ
鑑賞方法:DVD

Tuesday, December 4, 2012

幸せの黄色いハンカチ / The Yellow Handkerchief



『男はつらいよ』シリーズで名を馳せる山田洋次監督による、北海道を舞台にした邦画ロードムービーの代名詞。1977年製作の本作は主人公に高倉健および倍賞千恵子というビッグネームを起用し、本作が映画デビュー作となる武田鉄矢や桃井かおりが脇を固めつつ渥美清が端役という、主役級役者を揃えて臨んだ意欲作。単純なストーリーと分かり易いハッピーエンドだが、当時の若い世代の行動心情を荒削りながらも鮮やかに演じる武田鉄矢と桃井かおり、そして加えて『健さん』の圧倒的な存在感と名演技が、淀みの無いテンポの良い展開と相まって、公開年の第1回日本アカデミー賞、キネマ旬報賞やブルーリボン賞など国内の映画賞を総なめした。しかし、邦画のヒット作が国内の殆どの映画賞を受賞してしまうというのは日本映画界の伝統なのか。各賞の主催者が他の賞と違う切り口で作品を評価する姿勢が強ければこうならないと思うのだが。

作品に話を戻す。前述のとおりストーリーは至極単純で、失恋してヤケになった武田鉄矢演じる花田欽也は、赤いマツダ・ファミリアでフェリーに乗り、北海道でのツーリングに出かける事に。そんな欣也にナンパされたのは桃井かおり演じる朱美という女の子。彼女もまた失恋の痛手を北海道旅行で癒そうとしていたのだった、一方、網走刑務所から刑期を終えた島勇作(高倉健)が出所していた。とある海岸で勇作に写真撮影をお願いしたことをきっかけとして旅を共にする事になった3人だが、旅を続けるうちに勇作の過去が次第に明らかになる…。

レビューではあまりネタバレを書きたくないのだが、こと本作についてはDVDのジャケット然り、映画の予告編然りで、黄色いハンカチがそこら中にはためいており、仕舞いには映画本編の映像でさえエンディング直前に黄色いハンカチが見切れており、これでは映画を観ている途中からハッピーエンドを分かりつつ鑑賞することになるのが個人的にはどうもしっくりこない。

日本映画界の大スターである高倉健だが、その作品は『ブラック・レイン』くらいしか鑑賞したことがなく、どんな役柄でもいつも高倉健という印象だった。しかし、本編開始直後に勇作が駅前食堂でビール・醤油ラーメンとかつ丼を注文してそれを貪り食うというシーンを観て、自分が間違っていた事に気付かされた。何の変哲も無いビールを飲んで飯を食うだけのシーンだが、6年間服役した出所直後の男が飲む久しぶりのビールと美味い飯、というのが語らずともひしひしと伝わってくるようだ。聞くところによると、このシーンのために二日間食事を摂らずに撮影に臨んで一発OKだったという。高倉健が真のプロフェッショナルたる一端がここにある。(SS)


製作: 1977年 日本 108分
監督: 山田洋次 / Yoji YAMADA
製作: 名島徹 / Toru NAJIMA
出演: 高倉健 / Ken TAKAKURA, 倍賞千恵子 Chieko BAISHO, 武田鉄矢 / Tetsuya TAKEDA, 桃井かおり Kaori MOMOI, 渥美清 / Kiyoshi ATSUMI
ジャンル: SF, サスペンス, アクション
鑑賞方法: DVD

Monday, December 3, 2012

シベリア超特急 5 〜 義経の怨霊、超特急に舞う〜 / Siberian Express 5



本作は『シベリア超特急 5』でシリーズ第5弾ではあるが、前作は舞台であり、次作のシリーズ第6弾は水野晴郎の急逝により宙に浮いたまま、また、第7弾も舞台作品であることから、映画第4弾であり且つ実質シリーズの最終作となる。監督はマイク・ミズノ。製作・原作・脚本・主人公は水野晴郎。西田和晃は変わらず。大物ゲストとしては本作が最後の出演映画となってしまった故岡田眞澄。歌舞伎界から片岡某の二人、宝塚からは西條三恵が佐伯大尉の妹役として出演している。それにしても、シリーズを通して歌舞伎役者や宝塚出身者などが出演が目立つが何故だろうか。特に、本作では片岡某やら尾上某やら大量出演している。彼らはシベ超を役者キャリアにおけるステップアップの一つとでも考えているのだろうか。

ということで、物語の舞台はいつも通り。一応書いておくと、第二次世界大戦開戦前夜の1941年。ヒットラーとの会談を終えた山下泰文日本陸軍大将と佐伯大尉は、モスクワ駅からシベリア鉄道に乗り込んだ。そんな二人に『満州里到着までの7日間で、とある地図を確保せよ』との緊急伝令が入電した。そして、その地図とは源義経の秘宝のありかを描いた古地図のことだった。しかし、この古地図を探しているのは山下閣下だけでは無かった。そして、この古地図を巡ってお約束の密室殺人事件が発生する…。

本作はボンちゃんが二役で演じる淀川長治のパロディーから始まる。映画全体の展開を知った今となっては意味が無いとは言わないが、ハッキリ言ってしょーも無いシーンで意味不明である。しかし、この冒頭シーンの完成度が本作全体の方向性を如実に物語っているようだ。その他では、宙を舞うロープや列車上での格闘などいつも通りで、過去名作へのオマージュはヒッチコックのみならず西部劇の名作『駅馬車』にまで及ぶ。しかし、圧巻はシリーズ第2作以来の階段落ちである。万里の長城を落ちるこの階段落ちは圧巻とは書いたが、一言で言えばやり過ぎであり、もはや万人が持ち得る『笑いのツボ』の向こうにある事は否めない。

予算の配分が間違っているというのは言いすぎだろうか。お約束の『出演者紹介』シーンにおけるモスクワ駅のセットは相当に造り込まれており、ベニヤ板臭は微塵も臭わない。過去のシリーズにおいては、くま川鉄道あたりのSL走行をそれっぽく魅せたと思われる蒸気機関車の走行シーンだが、本作ではCGでそれを表現している。CGと言っても『シベ超』らしさ溢れるCGで、それ自体が何ら本作に対してリアリティーを与えている訳ではないが。また『一切揺れない車両』として過去に散々ツッコまれた車両のセットは、本作では『カメラワーク』および稲川素子事務所派遣の国際女優さん達が頑張って『揺れる車内を歩く演技』をしたことにより、疾走するシベリア鉄道車内を表現している。しかし、車両の幅があり過ぎて鉄道車両らしさを失ったのが残念。しかし、私が本作で最も酷評したいのは、高品質なセットやCGなどのいわゆる『見てくれ』部分に予算をかけておきながら、キャスティングも含めた作品の『中身』を手薄にした挙句、コメディー色を相当に強めた作品として仕上げてしまったことだ。本作はB級と言われながらもミステリー作品であり、絢爛豪華なエンターテイメントであったはずなのに、それが低俗なコメディー作品に落ちぶれていると言わざるを得ない。しかもコメディー作品として評価しても中途半端。個人的にはシベ超らしさという意味ではシリーズ第2作目が頂点にある作品で、映画作品としては第3作目が頂点かと思う。鑑賞し終わった後に、引退するタイミングを間違えた年老いたプロスポーツ選手の老獪さとは違う情けないプレーを観たかのようで、一人のシベ超ファンとして幾ばくかの寂しさを感じた。

今回の本編開始前のテロップは『最後に登場する真犯人の名と続くどんでん返しは決して人に話さないで下さい』というもの。はいはい。誰にも言いませんよ。スターウォーズ風のエンディングロールから『ドンデン返し』と続き、DVD版では最後にNG集も追加されている。

かつて、ポルシェのCMコピーに『最新のポルシェが最高のポルシェだ』というのがあったが、これを鑑みるに『最新のシベ超が最高のシベ超』とはならなかったようで残念だ。本作はこれまでシベ超作品を観たことの無い初心者にはお勧めできない。これはコアなファンが過去のシリーズ作品を十分に消化して、やっと到達できる悟りの境地にそびえ立つ霊峰のようなものだ。(SS)


製作: 2004年 日本 134分
監督: マイク・ミズノ / Mike MIZUNO
製作: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO
ナレーター: 油井昌由樹 / Masayuki YUI
出演: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO, 西田 和晃 (西田和昭) / Kazuaki NISHIDA, 片岡愛之助 / Ainosuke KATAOKA, 片岡進之介 / Shinnosuke KATAOKA, 西條三恵 Mie SAIJO, 中野良子 / Ryoko NAKANO, 岡田眞澄 / Masumi OKADA, ガッツ石松 / Guts ISHIMATSU, 佐藤允 / Makoto SATO, 淡島千景 / Chikage AWASHIMA, ニコラス・ペタス / Nicholas PETTAS, 片岡未来 / Mirai KATAOKA, 中村福助 / Fukusuke NAKAMURA, 大槻ケンヂ / Kenji OTSUKI
ジャンル: ミステリー
鑑賞方法: DVD

シベリア超特急 4 〜 監督殺人事件 〜/ Siberian Express 4



不朽の名作『シベリア超特急』シリーズ第4弾は何と舞台である。本作は2003年1月18日に新宿シアターアプルで上演された最初で最後の1度限りの舞台版をDVDにしたものだ。例によって演出、脚本、製作はマイク・ミズノ、監督は水野晴郎である。シベ超を生の舞台にして、しかも一度限りの公演とはマイク・ミズノも思い切った事をやったものだが、これをそのままシリーズ第4弾DVDとして発売してしまうあたりに、エンターテイナーでありプロデューサーでもあるマイク・ミズノの力量の向上を感じる。

本作のストーリーは少々トリッキーで面白い。端的に言うと『シベリア超特急 4』の製作を開始しようとしていた矢先、監督の水野が何者かによって殺害されてしまう。そして、この殺人事件の謎を解き明かすべく『シベ超 4』の制作スタッフは台本通りに『シベ超4』を演じることにした…、というもの。冒頭に宇津井健、内藤武敏や三田佳子などが出演しており、基本的には前作までの出演者がそのまま横滑りしているように見えるが、はっきり言ってこの御三方は出演者というよりも、舞台冒頭に水野とフリートークをかましているだけで、何らかの役を演じているわけではない。その他では新たな大物として丹波哲郎が本人役で参加するも、こちらもユルユルの演技とは程遠いもの。

ということで、本作をもって舞台と評するのは真面目に『舞台』に取り組んでいる方々に失礼かと思う。と言うのも、水野以外の役者陣は真面目に本舞台に取り組んでいるのに、肝心の主役の水野が台詞を忘れていると思われるシーンがあるのだ。周りの役者がそれをフォローしつつ上手く笑いに変えているが、おかげで舞台上に一流処を揃えておきながら、ストーリー展開は二の次になってしまい、舞台としてはほぼ破壊されたと言ってもいいだろう。私は何も台詞を発するだけで笑いを取る水野の『超棒読み』や『超々自然体』の演技を批判している訳ではない。台詞もロクに覚えずに一発勝負の『舞台』に上がってきた役者としての水野の取り組みを批判しているのだ。ちなみに、真柄加奈子も台詞忘れをしており、舞台袖のスタッフに次の台詞を促されている。

とは言うものの、そんな舞台も『シベ超』というフィルターを通して観てみると全てがそれらしく、本物の役者が演じる真剣な演技と水野のそれとの大きなギャップ、そしてそれが誘発する笑い。コメディー方面に強めに振った謎解きの面白さとお約束の反戦メッセージ。そして、最後にはお約束の『ドンデン返し』も準備されており『シベ超』らしい極上のエンターテイメントに仕上がった。

見終わった後にふと不思議な感じに襲われた。今、私が観たのは舞台なのかトークセッションなのか学園祭の出し物なのか…。『シベリア超特急 4を観たんだ』と自分自身に強く念じる事を強くおすすめする。さもなければ、この舞台作品を観たことすら忘れてしまうだろう。(SS)


製作: 2003年 日本 132分
監督: マイク・ミズノ / Mike MIZUNO
製作: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO
ナレーター: 油井昌由樹 / Masayuki YUI
出演: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO, 西田 和晃 (西田和昭) / Kazuaki NISHIDA, 三田佳子 / Yoshiko MITA, 宇津井健 / Ken UTSUI, 内藤武敏 / Taketoshi NAITO, 光本幸子 / Sachiko MITSUMOTO, 丹波哲郎 / Tetsuro TANBA, 真柄佳奈子 / Kanako MAGARA, やべきょうすけ / Kyosuke YABE, 安井昌二 / Shoji YASUI, 小田切みき / Miki ODAGIRI, 渡辺雄作 / Yusaku WATANABE, 金濱夏世 / Natsuyo KANAHAMA
ジャンル: ミステリー, 舞台
鑑賞方法: DVD