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Friday, November 30, 2012

シベリア超特急 3 ~ 60年目の悪夢 ~ / Siberian Express 3



邦画の名作『シベリア超特急』のシリーズ第3弾は、密室殺人事件や反戦というシリーズ・テーマに変わりはないものの、舞台も時代も総取替して臨んだ意欲作。今回は現代の瀬戸内海を航行する豪華客船が舞台だが、60年前にシベリア鉄道で起きた事件がダイアローグ形式で語られる展開で、シベリア鉄道車内で起きる殺人のトリックの中身も併せて鑑みるところ、シリーズ第1作目と2作目を足して2で割ったような作品だろうか。なお、本作は息子の不祥事で芸能活動を自粛していた三田佳子の復帰作であり、宇津井健、大浦みずきや内藤武敏などベテラン・ビッグネームが普通に出演しているあたりから、本作のネームバリューもそれなりに築かれたという事を感じさせる。

舞台は2002年。瀬戸内海上を航行する豪華客船上で大富豪の宮城伝蔵が主催する船上パーティーが開催されていたが、その最中にパーティーの参加者が殺されてしまう。殺害された時刻は3:14。そういえば宮城伝蔵が60年前にシベリア鉄道で遭遇したある殺人事件も同じ3:14に起きたものだった。そして、宮城伝蔵はその当時の話を静かに語りはじめた…。一方、その60年前のシベリア鉄道では、ヒットラー、ムッソリーニおよびスターリンとの会談を終えた山下奉文日本陸軍大将がシベリア鉄道で日本へ帰国する途中であった…。

『ヒットラーもスターリンも何を考えているのか分からぁん』という山下閣下の棒読み台詞、回を追う毎に洗練される人物紹介。考え込んでいるのか居眠りしているのか、はたまた死んでいるのか判別不能な閣下の演技。テグス丸見えの宙を舞うロープなど、過去の名作に対する数々のオマージュと定番シーンは本作でも健在。しかし今回はもっと凄い隠し玉が用意されている。冒頭の超長回しは本シリーズではすっかり定番となった手法だが、ここに凄まじい急降下爆弾が仕込まれている。時間でいうと本編開始後9:30の辺りで監督のマイク・ミズノが画面背後に見切れているのである。黄色いトレーナーを着ているマイク・ミズノはまさに特典映像のメイキングでみた監督そのものである。これを世間では大NGとかトンデモなどと評しているようだが、私はそうは思わない。これは『シベ超』を心から楽しんでもらおうとの狙いを持って意図的に織り込まれたマイク・ミズノ一流のエンターテイメントだろう。そしてその仕掛けに囚われた有名人を含む多くの人が、ネタとしてWEBやらTVやらラジオやらで喋りまくっている。私もそんな一人だが、この見切れのシーンに大笑いしてマイク・ミズノの仕掛けた罠に嵌まりつつ、監督としての力量の向上を感じるのだった。

今回の本編開始前のテロップは『瀬戸内海事件の真相とラスト二つのドンデン返しは決して人に話さないで下さい』との事だが、もはや『本作を観たことを決して誰にも喋ってはいけません』と言われているようなものだ。しかし、この前フリで『シベ超』のコアなファンを煽っておきながらの余りに普通過ぎるドンデン返しには全く納得出来ない。シリーズも3作目にきてマイク・ミズノとしては練に練った真面目な『ドンデン返し』なのだろうが、これでは笑いも何もないだろう。もちろん、それを良しと観る向きもあるのだろうが、私は『シベ超』が『シベ超』である所以をマイク・ミズノ自ら捨てたようなものと感じ、エンディングロールを観ながら盛り上がる私の高揚感をすっかり台無しにされ、久々に胸糞が悪くなった。(SS)


製作: 2001年 日本 111分
監督: マイク・ミズノ / Mike MIZUNO
製作: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO
ナレーター: 油井昌由樹 / Masayuki YUI
出演: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO, 西田 和晃 (西田和昭) / Kazuaki NISHIDA, 三田佳子 / Yoshiko MITA, 宇津井健 / Ken UTSUI, 大浦みずき / Mizuki OOHRA, 内藤武敏 / Taketoshi NAITO, アガタ・モレシャン / Agathe MORECHAND, 真柄佳奈子 / Kanako MAGARA, 大塚ちひろ / Chihiro OTSUKA
ジャンル: ミステリー 
鑑賞方法: DVD

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