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Monday, January 21, 2013

シベリア超特急 00・7 〜 汽車の中で悪霊が鳴く 〜/ Siberian Express 7

★☆

日本の映画史に残る名作である『シベリア超特急』シリーズ第7弾は、シリーズ第4弾に続く舞台作品である。タイトルの『00・7』がやや意味不明だが、当時は山下閣下の恋をテーマにしたシリーズ第6弾の製作が予定されており、かつ日本ユナイト映画時代の水野晴郎が宣伝担当をしていた『007シリーズ』のパロディとして『00・7』としたようだ。舞台のテーマとしては前回と同じで、映画版のキャストが集合しており、Version 1: 『ベルリンからの密使』と、Version 2『W佐伯大尉』の2回が上演され、セル作品としては2つの舞台の映像を水野晴郎が再構成した作品が『シベリア超特急 00・7』として発売されている。例によって演出、脚本、製作はマイク・ミズノ、監督は水野晴郎。もはやストーリーはどうでもいいだろうが一応アウトラインを書いておくと、光本幸子演じる平岡千鶴子外務大臣の就任パーティーにおける乾杯の刹那、ある老人が何者かによって殺害されてしまう。平岡外務大臣は62年前にシベリア超特急の車内で起きたある事件の事を語り始める…、というもの。

グダグダのオープニングは『007シリーズ』のオープニングに対するオマージュというか、そのまんまのモロパクリで、水野が襲いかかる悪漢をバタバタと切って倒すシーンから始まるが、本編とは全く関係がない。その後、前回の舞台と同様に安井昌二や小田切みきといった歴代の出演俳優陣に加え、何故か山城新伍が演技もクソもないフリートークで登場する。しかも、山城はエンドロールのクレジットで最上位に記載されており、益々理解不能。その後も唐突にザ・グレート・サスケが登場し、そのサスケが師匠と崇める謎のレスラー、シベリアタイガーとして水野が登場するなど、もはやシベリア超特急の世界観を完全に無視した暴走列車の展開。と、ここで油井昌由樹のナレータで再度シベ超ワールドに引きずり戻されるが、シリーズで佐伯大尉役を演じた西田和昭と竹田高利によるW佐伯大尉なるマニア向けギャグ、さらにチャイニーズ・エンジェルなるこれまたパクリの3人組のB級アクションをぶっ込んだりと、シリーズのコアなファンでも理解不能な、完全に方向性を失ったコメディ舞台となっており、前回にも増して真面目に『舞台』に取り組んでいる方々に失礼な作品。ここまでストーリー展開が薄っぺらだと、演技や台詞回しなどはどうでも良く、舞台としてもDVDとしても、果たしてお金を取って世の人に見てもらうレベルに達しているのか否かという、商用販売品としての根本が問われていると言っても過言ではないだろう。

Version 1 & 2と上演された舞台を観たわけでないので、本作を一括りにして断罪することは出来ないのだが、一人のシベ超ファンとして誤解を恐れずに言えば、DVDでリリースされた水野特別編集版という本作品に関しては、シリーズ最低作と断言できる。グダグダで粗雑な編集、唐突で繋がりを無視した展開と編集、スクリーンサイズの半分に切られた多くのシーン、BGMの音量調整が出来ておらず台詞が聞こえづらいという致命的なミス、更には、シベ超の意義根幹に関わる『反戦メッセージ』ですら乱暴で唐突に挿入されており、苦笑や冷笑を通り越し、もはや怒りのレベルにまで堕ちてしまっている。素人がiMovieで編集してもこれよりも綺麗な映像作品に仕上げられるだろう。

シベ超シリーズ不変の一本軸は『謎解きの面白さ』、『反戦メッセージ』と『ドンデン返し』であると思うのだが、『謎解きの面白さ』に関しては皆無。ドンデン返しは無理矢理。かろうじて『反戦メッセージ』が薄く織り込まれた本作は、シベ超シリーズというよりも、シリーズのスピンオフ作品くらいの位置づけで良いのではと思う。ただ一点、舞台冒頭で『俺関係ねぇーよ』と言い放った水野の台詞は、本作のみならず、シリーズ全体をとおして唯一と言って良い迫力のある台詞。その台詞さえも、他の出演者にかき消されてしまっているが。

シベ超を観る前はいつもドキドキというか、なんとも言えないワクワク感があったものだ。今回もその高揚感を持ちつつモニターの前に座ったが、ストーリーが展開するに連れて、そのワクワク感とは真逆の気持ちになってしまい少々後味が悪い。果たして本作を舞台と思っていいものか。子供の学芸会の出し物かと見間違う完成度の低さは、シベリア超特急のコアなファンでもおいそれと受け入れ難いものだが、しかしこれを許し、愛してこそ真のシベ超ファンと言えるのかもしれない。(SS)


製作: 2004年 日本 166分
監督: マイク・ミズノ / Mike MIZUNO
製作: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO
ナレーター: 油井昌由樹 / Masayuki YUI
出演: 水野晴郎 / Haruo MIZUNO, 西田 和晃 (西田和昭) / Kazuaki NISHIDA, 光本幸子 / Sachiko MITSUMOTO, 安井昌二 / Shoji YASUI, 小田切みき / Miki ODAGIRI, 乾貴美子 / Kimiko INUI, 金濱夏世 / Natsuyo KANAHAMA, 竹田高利 / Takatoshi TAKEDA, 山城新伍 / Shingo YAMASHIRO, インゲ・ムラタ / Inge MURATA
ジャンル: ミステリー, 舞台
鑑賞方法: DVD

レビュー後記: シベリア超特急シリーズは、映画作品4作と舞台2作品の全6作品が製作された。シリーズ第1弾を観た時の衝撃は今でも忘れられない。この稀有な一連の作品を制作したマイク・ミズノこと水野晴郎氏は2008年6月10日15時05分、肝不全により死去。76歳であった

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